少女と傭兵 01  


 太陽が中天を指す時刻、その街の市場は商人や買い物をする客、旅人や傭兵などの多種多様なものたちでごった返していた。

 その市場の一角、魔具を売っている商人のテントに灰色の外套をかぶった旅人らしき格好の人間が立つ。店主は内心で怪しい人物を注意深く見ながらもにこやかな笑顔を浮かべた。
 
「これはこれは。何をお求めで?」
 
 旅人らしい人物は体格からして男だろう、隙のない動きとにじみ出る雰囲気は歴戦の戦士を思わせ、外套の合わせ目から短剣と長剣の柄が除いている。その長剣の繊細で無骨さを感じさせない意匠に店主の商売人の目が光る。
 
「見事な剣ですなぁ、傭兵の方で?」
「まぁな。……封じの魔具があるか?」
 
 応じた旅人の声は以外にも若い。外套の影から覗く目ははっと息をのむような紫紺で刃を思わせるような鋭さがある。
 
「封じのですね。でしたら…ああ、こちらの腕輪などはどうです?模様もきれいですし魔石も質がいいですよ。女性に贈り物ならこういったのが人気ですよ。あ、あとこちらの指輪でしたら付けていてもただの飾りに見えますし有名な魔具職人が作ったものですから、男女とも人気がありますよ。そしてこっちは」
「強いのは?」
「は?」
 
 饒舌な店主の説明に男がさえぎるように聞く。
 
「一番強いのはどれだ?」
「あ、ああ、強いのでしたら、こちらの腕輪になります。これはかの有名なアルステルのシズ・イーマの作でして」
 
 再び店主の長い説明が始まりそうな予感に男が気づかれないようにため息を吐きかけたとき、街を揺るがす大音量が耳に届き、そちらを見て空に昇る土煙に男は見事な舌打ちをした。
 
「あのバカが。おい店主!!」
「は、はい!?」
 
 悪態をつきその明らかな苛立ちのこもった怒気に土煙の上るほうを唖然とみていた店主が身をすくませる。
 
「いくらだ!?」
「は?は、はい、3800ノースです!!」
「釣りはいらん!!」
 
 そういうとお金を店の台に叩くように置き、店主の持っていた腕輪をひったくると土煙のほうに走り出した。
 その時、青年は外套の下で忌々しそうな顔を浮かべていた。
 
 
 
 
 
***
 
 
 
 
 
「…はぁ、いい、加減に、しろ、って、いった、じゃん、か」
 
 土煙が上がった場所である路地では、肩で荒く息をしているのは白い外套のフードを外し目の前を睨みつけている少女がいた。見た目は13、4歳ほどで背中の真ん中ほどまである黒髪に白い肌、そして黒い双眸には明らかに怒りが宿っており、彼女の目の前には数人の小汚いいかにも悪党ですといった男たちが目をむいて伸びている。
 
「まったく、人を売ろうだなんていい度胸だ。この最低ヤローが」
 
 髪の毛をうっとうしげに払う少女はその愛らしい顔を歪めて男たちを見下ろしている。周りには少女が起こした騒ぎによって野次馬が集まりだしている。
 逃げたほうがいいかなと思いフードをかぶった瞬間、今ではもう聞きなれた声が後ろから聞こえた。
 
 
 
「それは俺のセリフだ。小娘」
 
 
 
 びくりとその少女が飛び上がり、彼女は恐る恐る後ろを振り返ってその顔を引きつらせた。同時に、まずいと冷や汗が出る。
 後ろに居たのは先ほどの魔具の店に居た傭兵の男。今はそのかぶっていたフードは脱ぎその鮮やかで長い赤い髪と見たものをはっとさせる鋭い紫紺の双眸で少女を見ている。いや、見ているなんて優しいものじゃない、睨みつけている。
はっきりと怒気を全身に滲ませその目には殺気すら浮かばせて。
 
「面倒を起こすなといっただろうが!!このバカ女っ!!」
「うわぁあぁぁ!ごめんなさいー!!」
 
 この世界で最強と言われる≪傭兵王≫の怒号と少女の悲鳴が路地に響いた。
 

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