少女と傭兵 02


  とある町にある食堂での一角で、一組の男女がひそかに注目を集めていた。

一人は鮮やかな赤い髪に紫紺の目をもち帯剣をしており、怜悧な雰囲気を持ったいかにも傭兵だとわかる青年。もう一人は漆黒の髪に漆黒の目をもった少女。こちらはどうやら育ちのよさが出ており、旅人の格好だがどこか違和感がある。
 
「問題を起こすなといっただろうが」
 
 注文した食事を口に運んでいる少女を見ながら、目の前の青年は不機嫌そうにその精悍な顔立ちに眉を寄せた。
 
「だから、あっちが向かってきたんだってば」
「動くなといっただろうが」
「連れて行かれたの」
 
さらりと答えた少女は目の前の青年の射殺さんばかりの眼光にもひるまず、食事に手を伸ばす。青年はまったく堪えてない様子の彼女に今にも剣を抜きそうな気迫を放っているが、当の本人はどこ吹く風。代わりに周りにいるほかの客たちは内心ひやひやしている程だ。
 
「ん?なに?食べないの?」
 
 不思議そうに青年を見る少女にお前のせいだと言いたいところを彼はぐっと抑えてテーブルの上の食事に手を伸ばす。それを見て少女は内心で、まいったなあと―――青年が聞いたらまったく思っていないだろうが、お前はと怒鳴られるに違いない―――思い食事を再開した。
 
「なぁ、あれ。オーディンだろ?≪傭兵王≫の」
「ああ。間違いなと思うぜ…多分」
「じゃあ、連れは誰だ?」
「さあ、福音を持っているから大方、あの嬢ちゃんを護衛しているんじゃないか?」
 
 ひそやかに交わされる会話にオーディンはちらりと目の前の少女を見る。
 
 漆黒の髪に漆黒の目。それはこの世界、シャイン・ティア・ノーラ、別名『光輝く悠久の宿木』に愛された子らの持つ色であり、その漆黒は世界からの福音、又は守護の証だ。それゆえにその色を持つものは縁起ものとされ、この世界では保護されるもの達でもある。そして同時に数が少なく貴重ゆえにあくどいことを考える人間も少なくない。
 
 そういったことから傭兵である自分がこの少女とともに居てもおかしくはない。護衛かもしくはその逆、人買いに売るためにつれているとしか見えないからだ。
 最も、後者はしたくても出来ないのが現状だった。厄介なことこの上ない事情によって。
そして、なによりこの少女が見た目のようにか弱く庇護するような対象でないことを知っている。
 実際に、さっき起こった爆発は彼女を捕まえ売ろうとしたならず者たちをその危険きわまりない彼女自身の魔力---―彼女自身は正当防衛だと言い張ったが―――で一人残らず容赦なく撃退したのだ。
 さっさとその場を逃げたからあまり目撃者はいなかったのが不幸中の幸いだったとため息をつく。
 
「なに?」
 
 視線に気づいたのだろう、少女シラハ―――灯崎白刃(ひざき しらは)は首を傾げる。それに合わせて癖のない肩よりも長い黒髪がさらりと揺れる。かわいらしい仕草に給仕の少年や周りの男たちが惚けるのを見て、≪傭兵王≫ことオーディン・ユラ・アルセイフは、再び、ため息を零した。
 
 

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