恩恵の狂想曲 03


  シュスラーレ国の最北最大の街、ヴェスヴィオ。

 ここは鉱山があり多くの種類の宝石がとれることで有名だ。
特に純度の高い数多くの魔石も取れるために職人や技術者は優秀なものが多く、有名な魔法士たち御用達の職人たちが居るほどだ。
 
 魔石とは魔法士たちが使う、もともと魔力を秘めた石で、主に彼らの魔力の補助や増幅、また一般にも多く流布しており、日常生活では昔から浸透している手放せない必需品だった。
 
 そんなわけでここは宝石と魔石が有名な細工師や職人たちの町だ。
 その街の入口を一組の旅人が通ったのは夕刻、夜の深まる時分のことだった。
 
「付けとけ」
「わっ!何これ?」
 
 ヴェスヴィオの手前の町で、問題を起こした二人は―――詳しくは一人だが―――早々にその町からでて夕刻にこの街に着いた。
歩きながらオーディンが投げて寄こしたのは、半透明の石で出来た数珠のような腕飾りで、その数珠の間を等間隔で雫形の淡い色合いの青い石が飾りとして付いているだけのシンプルだが、かわいらしいものだった。
 
「付けろ。魔具だ」
「魔具?」
「お前のそのバカみたいに強い魔力を封じるためのものだ」
「は?ちょっと、それっていざって時に使えないんじゃないの?」
 
 封じると言う言葉にひっかかりを覚えて焦ったように言うとオーディンがどこか呆れたような冷たい視線を白刃へとなげる。
 
「つけろ。この先、あんな目に合うのはごめんだ。それに噂が気になる」
 
 ごろつきをその『バカみたいに強い魔力』でのした後、その場をなんとかして逃げたことを言われ言葉に詰まった白刃はしぶしぶそれを右手首に付け、気になっていたことを聞いた。
 
「噂って本当かな?」
「さあな。ただ、街の入口にいた憲兵も似たようなことを言っていた」
「そうだね」
「問題を起こすなよ」
「分かってるよ。そっちもね」
「俺ならばれないように消す」
「怖っ!!それ、自慢にならないってば!それより、もう少しくらいはゆっくりしたかったなぁ…ぶっ」
 
 ぼやく白刃の前を歩いていたオーディンが急に止まり、白刃はその背中にぶつかった。なんだと上を見上げて彼女は思わず背筋を正した。
 
「……誰のせいだと?」
「すみません、あたしのせいデス」
 
 ドスのきいた低い声に素直に謝ると興味を失ったように再び前を向き、歩き出したオーディンの後を小走りになりながら付いていく。
 
 彼らの横を足早に家路をいそぐ町の人間が通りすぎていく。
 
 そしてふとここに来る前に聞いた噂が脳裏を掠めた。商人やオーディンと同じ傭兵、または旅人に聞いても皆、口をそろえていったのだ。
 
 
 
 ―――ヴェスヴィオで若い娘や人が消えている―――。
 
 
 
 どういうことかと尋ねるとまたもや皆、口をそろえていった。
 
 
 
 ―――目の前で霧のように消えるのだ―――と。
 
 
 

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