恩恵の狂想曲 04
夜の始まる時間、この場所には多くの客が入っている。それは情報をもらうためであったり、仕事をもらうためであったり、ただ単純に酒を飲んだり、女を買うためでもあった。
その騒がしい男たちのいる店の扉を開けて入ってきたのは紅い髪に鋭い紫紺の双眸、腰には長剣と短剣をさした青年と、青年と比べると小柄な頭からすっぽりとフードを被った人物。男たちの視線が一斉にそちらに向き、一瞬、喧騒が消え再びにぎわいだす。
違うのはその青年をうかがうような視線が多いと言うことだけ。
青年はそんな男たちに構わず、カウンターへと座り、小柄なほうも若干、周りを気にしている様子で席に着いく。
店主らしい強面の壮年の男がニコリともせずに口を開く。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「とりあえず、お勧めを4品くらい適当に。飲み物はエールと果実汁を」
オーディンが負けずに無愛想に注文すると、店主は奥の厨房へと伝えにいった。その様子を見ていた白刃はなんだか張り合っているみたいだと思いながら隣の青年に視線をやる。
「なんだ?」
「別に」
「それより、やけに傭兵が多いな」
白刃はオーディンの視線が自分たちの背後に向けられているのを見て、つられたようにちらりと視線をやる。
多いのかどうかは分からないが、確かに屈強な男やいかにも歴戦の戦士といったような雰囲気を持った男たちが席のほとんどを占めている。そんなことを思っていると目の前に料理が置かれる。
「はい、どうぞ、お待ちどうさま」
「ありがとう」
白刃が目の前に置かれた料理をみて、お礼をいうと店主は口の端をゆがめて笑った。
「嬢ちゃん。せめて飯を食うときくらいフードは外すもんだぜ?」
その指摘に思わず隣でエールを飲むオーディンを見ると、好きにしろといった視線を受けて白刃はフードを外した。
瞬間、酒場のざわめきが一斉に静まり、給仕をしている女の子や目の前にいる店主までもが目を丸くして驚いている。
そして、再びざわめきが戻り賑やかになる。が、白刃は自分にそそがれる視線に居心地の悪さを感じる。
「…あたしは珍獣か」
「はっ、いい気味だ」
そういって料理を口に運ぶオーディンを睨むと紫紺の瞳がおかしそうな色を浮かべて見返してきた。
「こりゃあ、驚いたな。あんた双黒か」
睨み合っていると、頭の上から降ってきた感嘆の声に、白刃は顔を上げた。
視線の先には心底、驚いている店主。白刃は眉間にしわをよせると店主がさらに口を開いく。
「いや、悪い悪い。お嬢ちゃん。なるほどな、お嬢ちゃんが≪傭兵王≫の連れだと納得だな」
「?」
「もう噂になっているのか」
「当然だろう」
呆れたように言いながらエールを飲むオーディンの隣で、不思議そうな白刃に店主が含み笑いを浮かべた。
「ようこそ、職人の街ヴェスヴィオの≪金の箱庭亭≫へ。歓迎するぜ。≪世界の愛おし子≫のお嬢ちゃん」