恩恵の狂想曲 06 


  昨夜の乱闘騒ぎから一夜明けて、そこが宿もかねた酒場だったため、そのままその宿に泊まった白刃とオーディン。

目が覚めて隣のベッドをみたら、そこはもぬけの殻。
 
「起こしてくれてもいいのに」
 
ぶつくさといいながら再びベッドに横になり、白刃はぼんやりとしていた。
 
「どうしようかな、出るなって言われてるしなぁ」
 
 窓の外を見ると太陽は高く、丁度、お昼時だろう。
 しばらく悩んだ白刃は勢いよく起き上がると服を着替え、外套を取り上げ被ると扉へ向かい扉を開けた。
 
 
***
 
 
昼間の街は昨夜この町に来たときよりも断然、賑やかだった。街の住人や旅人、オーディンと同じような腰に剣を刺した人や商人らしき人々が行きかう大通りには市場が開かれている。
先日いた町と違うところはやはり、細工された魔具や宝石を売っている店や看板がすこし目立つくらいだ。
 外套を頭から深く被っている白刃は、道の端のほうで工芸品の店を開いている商人を見つけそちらへ足を向ける。
 
「こんにちは」
 
 声をかけると商人は白い外套に深くフードを被った彼女をいぶかしげに見たが、相手が女の子だと声でわかったのだろう、表情を緩める。
 
「いらっしゃい。なにがいいかい?」
「いえ、ちょっと聞きたいことがあって……。この街で起きていることの噂なんですけど」
「ああ。人が消えるってやつだな」
「はい。詳しく教えていただけませんか?」
 
 なるべく丁寧に話す白刃に商人はうーんと眉間にしわをよせ、あごに手を置きながら彼女をみた。
 
「わしもあまり知らんのだが…」
「構いません」
「そうか、なら。はじめは一月前のまだ若い娘が消えてな、それから徐々に消えていく人間が増えていった。老若男女関係なしだ。今じゃ一日か二日に一人だ。しかも、若くて魔力をもったやつもいる」
 
 噂と同じだなと思いながら聞き入っていると、商人が声を潜め、白刃に顔を近づけろと手招きする。
 
「…実はな、ここだけの話。犯人は領主さまじゃないかっていわれてるんだ」
「え!?」
「声が大きい!…初めに消えた娘と領主の城を出入りしている魔法士を見たって話だ。実際に、領主はこれだけ人が消えてんのに、何もしねぇ」
 
 声をあげた白刃をいさめ続きを話している店主の声を聞きながら、昨晩、酒場で聞いたとおりだと彼女は目を細めた。
 
 何もしない領主。消えた人々。見知らぬ魔法士。
 
「そっか。ありがとう、おじさん」
 
 なるべく穏やかに聞こえるように、そういって商人に別れをつげ、来た道を帰ろうとした瞬間。
 
 背筋にぞくりと寒気が走り、後ろを振り返る。
 
 そこには先ほどと変わらない昼間の街、賑やかで穏やかな光景。
 白刃は思わず、外套の上から首筋をなでた。確かに感じた粘りつくような陰湿な視線とよどんだ気配。
 気のせいかと思い、再び歩きだそうと前を見た瞬間、彼女はその足を止めた。
 
 
 目の前には黒いローブを頭からすっぽりと着た魔法士が立っていた
 

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