恩恵の狂想曲13


 すでに深夜から朝方にかかった時間にも関わらず、街の自警団に、この領地を守護している国に仕える地方騎士団とさらには領主個人の私兵でもある騎士団のせいでヴェスヴィオの領主の城の入口はごった返していた。

  最も城に入った瞬間、異様な臭気と歪んだ瘴気とも呼べる魔力、そして無残にも散らばった騎士たちの持ち物の残骸が転がっているため、ただの街の自警団の人間は即座に回れ右をしていたが。

 瘴気の影響で頭痛は治まったものの体に倦怠感があり、邪魔になるだろうと城壁に近い場所に植えある木立に寄りかかるようにして立っていた白刃は、その様子を慣れてないと無理だよなぁと何とも豪胆というか呑気な感想を抱いて見ていた。
 
 一方、彼女の旅の連れは、白刃によって気絶させられた魔法士を地方騎士団の騎士たちに引き渡し、領主お抱えの騎士団の面々に指示を出して、後片付けを手伝わされている。街の自警団の人々も加わり、雑用やその騎士たちとともに動いていた。
 
 オーディンが指示を出しているのは、とっとと事が済んだらトンズラしようとしたのを白刃が契約の力で『無理矢理』止めて、騎士団の人たちの手伝いをするように言ったのだ。
 実際、領主の城門や白目を向いている領主の騎士たちを倒したのは、誰であろうオーディンだ。後片付けくらいはしないといけないだろう。
 
「……それにしても、派手にやったんだな」
 
 ちらりと城門を見る。
 城門もかなり大きいといえば大きいが、なんというかその下の中央に、でかでかとした穴が開いているのを見ると、オーディンが人に力を使うなというのが理不尽な気がしてくる。
 それでもあの城門を壊したときの爆発で助かったのは事実なので、文句は言わないが。
 
「それじゃ、もういいな」
「はい!ありがとうございました!!」
 
 若い騎士に背を向け、こちらに向かってくるオーディンを見て白刃は苦笑する。
 うんざりしたような顔をしている本人とは対照的に、先程まで指示を聞き、話をしていた若い騎士やオーディンの剣捌きをみた騎士たちが尊敬や憧憬をこめた視線を送っている。
 
「なにを笑っているんだ。お前は」
「んや、別に」
 
 どうやら微笑ましいなあと思っているのが顔にでていたらしい。
白刃は肩をすくめた。ちなみに今、フードを被っていないため、珍しい黒髪黒目の白刃とただでさえ有名なオーディンは視線を集めているのだが、まったく気づいていない白刃は気になっていたことを聞く。
 
「ね、なんであの変態ヤローは選ばれたとか言ってたんだ?魔法士は普通にいるんだよね?」
 
 そう確かに言っていたのだ。マロイは『選ばれた』と。
 そして、白刃はオーディンからこの世界の常識について、ある程度は聞いている。
 
 オーディンは白刃をちらと見るとそのまま歩き出す。どうやらここでは話さないらしい。
 先に歩いていくオーディンの後を白刃が小走りになって付いていく。
 領主の城門を出るとなだらかな下り坂にさしかかったところで、オーディンが歩幅を緩めた。
 
「……騎士たちから聞いたが、あの男の家は代々、細工師の家だったらしい。そこに魔力をもった子供が生まれ、あれよあれよという間に一族にのせられた傲慢なお坊ちゃんの出来上がりだ」
「………」
 
 代々細工師の家の生まれた魔法士。
周りの者は彼を大切にしすぎたのだろうか。
 
 魔法士は魔法学校に通いそこで魔法のノウハウを学ぶ。魔力があれば誰でも入れるし、貧しい家の子供でも、多額の補助金や奨学金が出る。
 だからこそ、売るように子供を学校に入れる親もいるとオーディンが言っていたのを思い出す。
 
 魔法士は、数は多いが、実際にそれを使いこなせるといったら、まだ少ない。だからこそ、育成に力をいれ優秀な魔法士を育てる。
 そこに選民意識やエリート意識がないと誰が言えるだろうか。
 
「魔獣って、あんな風になるものなの?」
 
 魔獣。
 それは魔法士たちが使役する使い魔のことで、契約を交わした精霊や魔法士自身の魔力を形にしたものだ。
 
「いや、普通はならない。おそらく力に溺れて、手を出して≪陣≫の式を間違えて魔力自体が歪んだんだろうさ。……未熟なまま手を出すからこんなことになる。バカが」
 
 前を歩くオーディンの口から出た、小さな呟きが風に乗って白刃に届く。
 前半のほうは単なる悪態に過ぎないが、後半の方には、確かな、どうしようもない程の忌々しい、だけど、どこか切ない響きが宿っていて。
 
白刃は結局、朝の光で白けていく空の下を歩きながら、そのまま口を開かなかった。
 

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