道化たちの宴 49


 

 シーツをはがして現れたのは揺らめいている漆黒だった。
 いつもの真っ直ぐなそれ。
 だから、それが揺らめくのはなぜか気に食わない。
 いつもなら真っ直ぐと自分を見返す白刃の目が泳ぐ。それを見逃す彼ではなく。
 
「何があった」
 
 問いに白刃は困惑する。うつむこうとしたらあごをとられ、上を向かされる。
 
 逸らすことを許さない紫紺。
 
 だって。なんで。どうして。
 
 知らないはずの≪陣≫。
 湧き上がってきた衝動。
 そして、確かに感じた―――歓喜。
 
 視界が揺れる。
 
 だって、そんな。
 
 暗殺者を倒した後の周りの視線。
 奇異。驚愕。疑問。
 
 ―――畏怖。
 
 何も言わない白刃を見ていたオーディンはその紫紺をかすかに細めた。
 
 彼女の白い肌を伝う雫。
 
 そのまま、シーツに染み込むそれ。
 
「白刃」
「だって…知らないっ…」
「何を」
「あんな、の…っしら、っく、知らなっ、ないっ」
 
 嗚咽を零しながらの言葉。
 手を放すと顔を手で覆い、嗚咽が激しくなる。
 
 あんなのというのは、あの≪陣≫のことだろうか。
 顔を覆い、嗚咽を漏らす彼女を見て、その目を細める。
 
「知らない。だって…っ、どうし、って…ひっ…っ!」
 
 うわごとのように繰り返す白刃に、何を言えばいいのかわからない彼はその場にいるしかなかった。
 
 震える肩。こぼれる雫。
 声さえも震えている。
 
 オーディンがベッドの端へ腰掛け、手を伸ばし漆黒の髪を梳く。
 ぱらぱらとこぼれる滑らかな黒髪。
 手を伸ばして白刃の頭を引き寄せる。
 少女の体がぴくりと反応し、彼の胸元を掴んだ。
 オーディンの片手は宥めるように背中を軽くたたく。
 
 慰めも、何も出来ない。言えない。 
 ただ。
 
 彼女の頭を抱いていた手を頬にやり―――。
 
「いひゃい」
 
 なんとも情けない声で白刃が講義する。
 
「よく伸びる頬だな」
「……はんでこんなほひょひゅるほさ」
「なにを言ってるかわからんな」
「ひょーひぃん!!」
 
 頬をつままれたまま、なんとか逃れようと体をよじり、胸中ではいじめだドSがここにいると叫んでいた白刃は次の瞬間、目を瞠った。
 
 緩められた紫紺。
 穏やかな。
 
 ぽかんとしている少女の様子にオーディンの顔がしかめられ、頬から手が離れる。
 
「なんだ」
「え!?あ、ううん!!なんでもない!!」
 
 頬を撫でながら、ちらりとオーディンを見るとばっちり目があった。
 
「知らないなら知らないでいい」
 
 いつもと変わらない深い色の紫紺の双眸に、白刃は泣きそうになりながら笑う。
 気にするなという慰めでもなく。
 
 ただ、それでいい。
 
 それが何よりも嬉しい。
 
 同時に、先程のことを思い出し、顔が熱くなる。
 あれはただの気まぐれというか偶然みたいなものでと必死に動悸を鎮めていると、白刃の顔が赤いことに気づいたオーディンは。
 
 背を向けた彼女の耳元へかがみ。
 
「白刃」
 
 吐息と共に声を出した瞬間。
 
「○!×▽※¥#%&?◎―!!」
 
 城内に悲鳴ならぬ奇声が響いたとかなんとか。
 
 
 
*    *    *
 
 
 
 白刃が涙目でオーディンを睨みつける中、当の本人はセイに食べ物をやって遊んでいる。
 その背中を恨みのこもった目で睨んでいた彼女は、オーディンがふと視線を上げたのを見て、そちらを見やり。
 
「お二人さん、報告だ!!」
「アルザス!?」
 
 天井付近の空中から現れたのは金髪に空色の青年。
 
「ドアから入って来ようよ」
「いやー、それをするとお邪魔になっちゃうかなって」
「な、ななななんの邪魔!?」
 
 顔を赤くする白刃にアルザスがにんまりと笑う。
 
「さあ?」
 
 その含んだような笑みに白刃が逃げたくなったとき、オーディンがアルザスに問いかけた。
 
「報告ってなんだ?」
「黒幕がわかったぜ」

 


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