道化たちの宴 53 


 

 城内を走る。
 目の前には魔獣がけたたましい咆哮を上げたり、傭兵たしき男と武官たちが剣を交わしていたりと、混乱まではいかないにせよ乱闘騒ぎにはなっていた。
 そんな中、魔獣が一人の武官に襲いかかり、その牙を突きたてようとした瞬間、放たれた魔法によって魔獣が吹き飛び、壁に激突したところを氷の刃が貫いた。
 
「ヴィヴィラード様!」
 
 危機を逃れた武官が安堵したように彼女の名を呼ぶと周囲の武官や王の【狗】たちがこちらをみる。その彼らの顔には安堵と確かな信頼の色が浮かぶのを白刃は見た。
 
「ここはわたしとこの子が引き受けるです。あなたたちは西翼へ」
「は!」
 
 白刃は即座に魔獣たちの動きを止めるために結界をはる。その隙に武官たちはヴィヴィラードや白刃に軽く会釈をしながら西翼へ向かっていった。
 
「さて、一気に終わらせましょうか」
「え…」
 
 穏やかな声を発すると同時に、隣にいるヴィヴィラードの魔力が膨張するかのように噴出すと廊下にぽっかりと穴が開いた。
 
「な!?」
 
 白刃が思わず驚愕の声をあげる。
 穴は魔獣を掃除機のように吸い込み、やがて口を閉じるかのように現れたときと同様に消えた。
 
「ふう、ご馳走様でしたです」
「へ?」
 
 隣で満足そうに微笑む少女に白刃は顔を引きつらせる。
 まさか。
 
「あ。言ってませんでしたね。わたしこの城なのです」
「城!?」
「はいです。だから王城の魔女とも言われてます」
「えーと、ヴィヴィは城で魔女ってこと?」
「んーと、正確には魔女なんです。今から七百年前にシュスラーレの王と契約をして、王と城を守るようになったんです」
「へー」
 
 ヴィヴィラードの過去の話に感心したようにうなずく白刃に彼女は微笑んだ。
 
「さて、あの子のところに行きましょうか」
「あの子って…」
「ユリウスです。あちらも、そろそろ終わる頃だと思うです」
 
 そして、彼女たちはその場から姿を消した。
 
 
 
*    *    *
 
 
 
「貴様!傭兵お…!!」
「邪魔だ」
 
 切りかかってくる公爵家の私兵を斬り倒しながらオーディンは公爵邸の廊下を進んでいた。
 魔法の気配をたどることは彼にとっては造作もないことだった。
 その紫紺の双眸が淡い光を内包している。
 それは彼が【魔眼】を持っていることの証。それに赤い髪とくれば誰もがオーディン・ユラ・アルセイフを思い浮かべる。
 
 それほど彼は名前が知られていた。
 
「ユリウスのヤツ、あいつをだしに使ったな」
 
 そうぼやくとそのまま廊下の奥の扉を蹴破った。
 
 室内には数人の魔法士と騎士。
 部屋へ押し入ってきたオーディンに彼らは即座に剣を構え、魔法を放つ。が、オーディンは放たれた焔と風の≪陣≫をまとめて切り裂くと、近くにいた騎士を返す剣で斬り伏せ、そのまま別の騎士へと向かい倒していく。
 魔法を打ち消され動揺する魔法士の一人の額にすかさず短剣を投げつけると過たずに突き刺さる。
 
「こいつ!」
 
 激昂した魔法士の一人が≪式≫を組む。それをオーディンが笑みを浮かべて一蹴する。
 
「遅い」
 
 もう一つの剣を抜き、後ろからの騎士の剣を受け止め、腹を蹴り飛ばす。長剣は魔法士の胸に吸い込まれるかのように刺さった。
 あっという間に室内の半分以上を倒したオーディンに残りの騎士や魔法士たちが怖気づいたように後ずさる。
 
「どうした?来ないのか?」
 
 挑発的な笑みを浮かべるオーディンの顔には返り血が飛び、それが彼の纏っている殺気や闘気とあいまって、より彼を凄絶に見せる。
 怯えの表情で自分を見る魔法士にオーディンはそっと胸中で自嘲した。
 
 自分と会った魔法士は大体、こんな顔をして見る。
 怯えと畏怖と。
 自分の魔法が悉(ことごと)く、打ち消され決して叶わないと思い知らされるゆえにその顔に恐怖を浮かべるのだ。
 
 脳裏に漆黒の双眸が浮かんで消えた。
 
 【魔眼】ということだけで怯え畏怖する目を彼女は向けなかった。
 こちらの常識という常識を一切知らない少女は。
 彼女はそういった目を自分に向けたことはない。
 
 そんな考えが頭に過ぎった瞬間。
 
 背中に衝撃。
 腹部に走る激痛。
 
「油断大敵だな」
 
 その声に肩越しに振り帰ったオーディンは酷薄に笑む男を見てその場に崩れ落ちた。
 
 
 
 
 転移したヴィヴィラードと白刃はユリウスの姿を見つけ、そちらに向かう。その途中、白刃の足が止まる。彼女は何かに呼ばれたように窓の外を見上げる。
 
「……オーディン?」
 

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