その感情は キリ番120000リクエスト

 

 

 

 舞咲一妃は、彼女の周囲にいる友人たちよりはあまり目立たない。あくまでも彼女の友人たちよりだ。だからこそ、彼女の一人を見たとき、あまり注目されないのかというとそうではないことに気づく。
 
 小柄な体躯、すらっとした細い手足、目はぱっちりとしていて、桜色の薄い唇に白い肌、そしてくるくると変わる表情。彼女を構成するパーツの一つ一つは、整っていて美少女というよりも可愛らしい少女だ。
 それは一緒にいるようになって感じたこと。
 
 そして、世間にはこういった言葉がある。
 
 
「一人が考えることは十人考える」などという言葉が。
 
 
 
 
「今、なんつった?」
「ん?だから一妃は呼び出しがかかったんだと。しかも、お・と・こ・から」
 
 語尾にハートがつきそうに上機嫌に笑いながらいう悪友を殴り飛ばしたくなったのは言うまでもない。
 
 一応、話題の彼女とは彼氏彼女になった。というか、周囲から言わせれば、やっと落ち着いたのかよお前らという感覚ではあったが、晴れて、ついこの間そうなったのだ。
 
 夏休みも目前。終了式を明日に控えて、学校中が浮き立ち、それぞれが彼女、もしくは彼女を作るだの、旅行に行くだのといった計画を練っているのは、彼の耳にもちらほら入っている。
 まさかという思いはあったにせよ、付き合っているのは公然の事実なので、そんな行動を起こす相手がいるとはあまり考えていなかった自分を彼は呪った。
 
 そんな彼の胸中を知ってか―――確実に知っていてわざとであろうと予想はつくももの―――悪友は楽しそうに話を続ける。
 
「中庭に呼び出されたみたいだぞ。綺が絶対に不必要に近づくなって言っていたしな。…朝葉?念のため聞くけど、どこ行くんだ?」
「わかっているなら聞くな」
 
 そういって、放課後の閑散とした教室を出て行く。
 悪友の背中を見ていた静は、くつくつと喉の奥で笑いながら教室のドアを見た。
 
「変わるもんだなぁ…ホントに」
 
 
 
 中庭は階段を下り、隣の校舎との渡り廊下へでればすぐそこだ。
 
 旧校舎と新校舎の間にあるこの広い中庭には死角になる場所がある。旧校舎とは逆の方向へと彼は視線を向ける。そこには、向き合って話をする男子生徒と女子生徒が見えた。丁度、植木の陰にはなっているものの、こちらを向いている男の顔や雰囲気からして、そういった場面なのだろう。
 
 女子生徒の方は、彼にとっては影だけでも分かるような存在なので、あえて確認する必要はない。が、気分としてはあまり嬉しくない。むしろいやだという感情がわきあがる。
 
 女子生徒が頭を下げる。相手の男が焦ったように彼女に詰め寄る。どうやら食い下がっているらしい。それでも、断っているのだろう。
 あの困ったような顔をして。申し訳なさそうに。その表情がすぐに脳裏に浮かぶのに彼は内心で苦笑した。
 
 そして、取りあえず止めるかと足を踏み出そうとした彼は、目を見開いた。
 
 男の方が苛立ったように女子生徒の両肩を掴んで、引き寄せたのだ。次の瞬間、彼は湧き上がった衝動を抑えることなく、無意識の内に地面を蹴っていた。
 女子生徒の腕を強引に引くと男が驚くのがわかった。同時に、掴んだ腕の持ち主が息を呑んでいるのも。
 
「触るな」
 
 自分でも相当な顔をしているだろうと思ったが、こんなことをされて冷静でいられるわけがない。彼は、体の奥で、黒くくすぶる感情のまま相手に低く脅すように強く言うと男は顔色を変えて、逃げるように二人の前から走り去った。
 その背中を睨みつけていると。
 
「あ、あの、朝葉」
 
 躊躇しながらも女子生徒、舞咲一妃が彼を呼ぶ声が耳に届く。見下ろすと困ったように見上げていた彼女と視線が合う。
 
「一妃」
「はい!」
「隙がありすぎる」
「うっ」
 
 言葉に詰まったのか、肩を落としている彼女をみて、彼はため息を軽くつくと腕を放し、そのまま歩き出す。
 
「朝葉」
 
 歩き出した彼の背中に、一妃の声がかかる。
 彼は足を止めて、振り返る。そこには不安や焦燥が入り混じった表情をした一妃。彼は、こういったときにどういえばいいのかわからないために、無言で一妃を見る。すると益々、体を縮める彼女。どうしたものかと考える。
 
 責めるとか怒るといった感情はない。むしろ、相手の男に対してはある。今まで付き合っていた女に対してそういった感情を持つことはなかった。どす黒く淀んだ焦燥にも似たその感情を人がどう呼ぶものか知っているだけに、口に出すのは憚られた。だから、別のことを言葉にする。
 
「帰るぞ」
 
 途端に、顔を明るくしてうなずき、隣に並ぶ一妃に朝葉はなついた犬みたいだと失礼なことを考えつつ、
 
「一妃」
「なに?」
「あんまり、男に触らせるな」
「へ?」
 
 一妃が歩みを止め、朝葉を見上げる。彼はその視線を受け止めながら、体をかがめて耳元に口を寄せる。
 
「次あったら、お前、襲うぞ」
 
 今回は不可抗力だったとしても、次あったらどうするかはわからない。それは状況によるかもしれないが、彼女が誰かに、自分以外の誰かにあんなふうに触られたら嬉しくないし、触れされたくない。
 顔を赤くして、絶句している彼女を見ながら、口元に笑みを浮かべる。
 
 
 
 自分自身こうも敏感に反応するとは思ってなかったものの、彼女に触れるのは自分だけでいいと思う。そして、彼女を今のように一喜一憂させるのも自分だけでいいと思っているのは事実だった。
 
 
(*ブラウザバック推奨)

rikoさま、どうでしょうか!?朝葉の独占欲というリクエストでしたが、ちゃんとご希望にそっているでしょうか?(汗)

管理人としては、嫉妬のほうが強いかと思ってます…(汗)もし、リクエストと違っていたらすみません!!お楽しみいただければ嬉しいです。では!

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