リクエスト:朝葉と一妃の喧嘩で、朝葉がオロオロする。本編終了後の二人。
D.Mさまのみお持ち帰り可。

 

 

「お前、それ言ったほうがいいぞ?絶対」
「そこまで大袈裟なことじゃない」
「いや、そうなんだけどな。………はぁ。俺は知らないからな」
今思えば、この忠告をちゃんと聞いておくべきだった。そう後悔しても遅いのだが。
 

季節は空気が乾燥して冷たい風が吹き、太陽の温もりが恋しく感じる時期。世間では、今年の最低気温を記録しただの、記録的な大雪に見舞われたとニュースで騒がしいこのごろ。暖房の効いている建物の中であるにも関わらず、木枯らしが吹きすさぶる外よりも寒く、吹雪に見舞われれ凍りつくのではないかという程の冷気がある人物を中心に周囲に散っている。
「あー………。一妃?」
「なに?」
 気まずそうな幼なじみでありトラブルメーカーがこちらを伺う視線に冷たい一瞥を投げたのは彼にとっては妹分のような存在の少女だ。
 少女の手には花束があり、その顔には表情は浮かんでいない。それが彼女の怒り具合を表していることをしっている彼は「何でもありません」とばかりに首を横に振った。
 天城静は首に巻いているマフラーを取りながら、触らぬ神にたたりなしってやつだなつーか、今、この幼なじみに何か言うと直球で胸をえぐるようなことを言われるのは間違いない。あーもう、だから言わんこちゃないっての。
 などと、思考をめぐらせながらため息を少女に気付かれないように窓から見える鉛色の空に吐き出して、静はこれから向かう病室の主を思った。


 彼女が不機嫌な理由は彼女の幼馴染とその悪友が原因だった。喧嘩をしたりするのはいつものことだし、何より静は唯でさえトラブルメーカーだ。
 今更、喧嘩がどうのこうの言うつもりはない。決していいことだとは思わないが、時に必要だと思っている。だから、それはいい。
 静や彼氏である黒崎朝葉たちの喧嘩に巻き込まれれば自分は足手まといでしかないし、何より自分が傷ついたときに彼女以上に辛く痛いと思い、自分を責めるのは彼氏である彼だ。
 だから彼らが自分を大事に思って危険から遠ざけるのはわかるし納得もしている。だけれど、今回の件は彼女にとって、はいそうですか、言えなかった。
 たどり着いた病室の扉を開ける。
 やや広めの個室は静が手を回して確保した部屋だ。大きな窓の向こうは彼女の胸中とは別に憎たらしいほど晴れ渡っている。
 病室の主はベッドに寝ており、持っていたバイクの雑誌から目を上げて扉を開けた人物を見て驚き、すぐさま鋭い視線を悪友にやる。
 その咎めるような視線を受けた静は肩をすくめて答える。すると益々、視線をきつくさせる部屋の主の名前を彼女が呼んだ。
「朝葉」
 自分でも意外に思うほど、固い声が出た。彼は眉間に皺を寄せて、視線をかすかに揺らす。
 表情も変えずに一妃は珍しいと内心で呟く。彼がこんな風に困ったり言いよどむのを見るのは滅多にない。しかも、これは言いたくないのではなく、どういったらいいのかと困っているのだと分るくらいには彼女は彼の傍にいた。
 そう自分は確かに彼の傍にいて、いたいと思っている。相手の全身にざっと目をやると、顔はそんなに腫れていないものの擦り傷や打撲の後があり、幼馴染から聞いた話では助骨が数本折れているのだとか。
 自分を思ってくれるのは嬉しい。嬉しいが、それとは別に言いようのない感情が渦巻いている。
 一妃はそれを溜め込むことを放棄した。
 すっと空気を吸い、


「こンの馬鹿っ!!!!!」


 怒声。
 朝葉の目が瞠られる。視界の隅に静が耳を押さえているのが見えたが構うものかと一妃は自分の彼氏であり、今回、無茶無謀、馬鹿としかいいようのないことをやらかした大馬鹿者に指を突きつけた。

「信じられない!!一人で突っ込む!?静と友人やっている時点で喧嘩をそれなりにするのは知っているし、どんだけ強いとか知っているし?でもね?喧嘩して怪我をしたんなら一言ぐらい言ってくれる?巻き込みたくない?心配させたくない?不安がらせたくない?ふざけないでくれる!?あのね!朝葉が喧嘩して怪我しようがしてまいが、心配すんのも不安になったりするのも一緒なの!?わかる!?だったら、初めから言っておいてくれたほうがいいの!!」

 唖然としてマシンガントークではなく息継ぎをどこでしているのかというような矢継ぎ早の言葉に朝葉は彼にしては珍しく固まっている。そんな相手を気にすることなく一妃は続ける。

「聞いてる?人の話…っていうか、そこのトラブルメーカー笑ってばかりいないでくれる?あんたも悪いんだからね!?ああ、話が飛んだ。だから、今度から何かあったりしたときは一言でも言うこと!何も知らないより知っていた方がこっちは同じ心配や不安でもマシなの!!わかった!!??」

 病室の中に沈黙が過ぎる。
 唖然、呆然としかいいようのない体の自分の彼氏に一妃の目が細まる。
「返事は!?」
「……あ、ああ」
「よし」
 一気に溜まっていたものを吐き出した本人は、満足そうに軽く息を吐く。そして、その表情を歪ませる。
 ヤバイと背中をひやりとしたものが駆け抜けたときには、その瞳の淵から涙がぽろりとこぼれた。

 朝葉は固まった。
 どうすればいい。何を言えばいい。なんで泣いているんだ。いや、自分のせいだとわかっているけど。どうしたら泣き止むのか、どうやって慰めればいいのかなど、今まで泣かせた女はいても慰めたりしたことのない彼にはどうすればいいのか分らない。
 視線を右に左にやり、にやにやする悪友をみて苦虫を潰したように顔を歪めるが、悪友には射殺せそうな程に鋭くにらみつけても効果はなく。かといって、声を抑えて泣く彼女を放っておくわけにもいかず。
「…泣くな」
 泣くな。悪かったから。
 結局、言えたのはそんな言葉で。馬鹿だのアホだのといいながら泣く彼女の次から次へと零れる涙を拭って頭を撫でた。
 同時に自分の彼女である少女にどうやって許しを貰うか悩み始め、結局、思いつかず一妃のお願いを聞くことになるのを彼は知らない。
 そして、その様子を見た静が再びお腹を抱えて笑いの発作と戦うことになるのだった。

 


「そろそろ、機嫌を直してくれないか」
お題:リライト

 

(悪かった)
(本当にそう思ってる?)
(ああ)
(じゃあ一週間、あたしの好きな喫茶店のケーキ全種類制覇するのに付き合って)
(…わかった)
(朝葉も食べるんだからね)
(……い、いや、それは…)
(食べるんだからね? にっこり)
(………)
(ま、負けてる…っ!! 笑)
 

D.Mさま。
リクエストありがとうございました!長々とお待たせして申し訳ありません(土下座)こんな感じでどうでしょうか?ドキドキ
もし気に入らないという場合は返品ありなので!!

 

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