01

 

 最近、よく思うのだ。

 自分が何をした、と。

 
 舞咲一妃(まいざきかずひ)は目の前にいる、正確には自分を囲んでいる先輩たちにそう言いたかった。 
 
 場所はあまり人が通らない旧校舎の裏。
 
 昼休みに呼び出されたときは、おいおいまたありきたりな場所にしたんだなという程度しか思っていない一妃はある意味大物だろう。
 目の前にいる五人ほどの上級生は、全員が女子。そして顔には念入りな化粧をし、髪も巻いていて、これからデートですかというような印象だ。 
 
 ちなみに一妃は化粧などしていないし、肩より少し長い髪をそのまま流している程度だ。それでも彼女はかわいらしい顔立ちをしている。
 本人はそういったことに無頓着だったが。 
 
 一妃は旧校舎を背にして取り囲まれていた。周りにはいかにも友好的でない上級生。
 普通なら怯えるような状況で彼女はいつものことだと思い、早く終わってくれないかなと呑気に思っていた。そんな彼女の胸中などお構いなしに目の前で会話が進む。 
 
「大体、一年のくせに」
「生意気なんだよね」
「静先輩とちょっと仲がいいからって」
「調子に乗ってさ」
「あんた何様?」 
 
 お前が何様だ。
 
 思わず突っ込む。 
 それよりも問題なのはこの先輩方がどうしてこんなことをしているのかということ。 
 
 ここに来る前からまたかとは思っていたが、予想に違わない話に一妃は内心で呆れると同時に、ここにいないむしろ、まだ学校に来ていない幼なじみにこの鬱憤をどうやってぶつけてやろうと思考をめぐらせる。
 
「それにさ、特別可愛いってわけじゃないじゃん」
「言えてるー」
「ていうか、普通すぎない?」
「だよねー」
「静先輩は可愛いとかっていってたけどさー」
「全然、そんなことないよね」
「普通すぎてかわいそうだから言ったんじゃないの」
 
 そんなことを言ったのか静。
 
 あの女たらしの喧嘩バカヤローが、後で、絶対に、絶対になにかおごらせてやる。 
 ついでに殴る。 
 
 そう胸中で幼なじみに対する怒りを燃やしている少女が固く決意したときだ。
 一妃の逆鱗に触れる言葉が耳に刺さる。 
 
「舞咲のお嬢様ってそうでもないのね」
「そうだよね。もっと美人かと思ってたし」
「わかるー。凄いのはお家ですって感じだよね」
「そうそう。どうせお金で傍に誰かいてもらってたりして」
「いいなーそれ。わたし静先輩にいて欲しい」
「ねぇ、わたしたちにもおこぼれに預かりたいわ」
「ねぇ、舞咲さん?」 
 
 ぶつんと何かが切れる音がした。
 うつむけていた顔を上げると自分を囲む上級生を見渡す。そして彼女はにっこりと笑った。 
 
「馬っ鹿みたい」
「な!?」
「はあ!?誰に向かっていってんのよ!」
「誰に?…あー下級生を囲んで低レベルないじめをしている先輩にですけど。大体、こんなことをやってるなんてよっぽど静に相手をされなかったんですね。先輩方は」 
 
 気色ばむ先輩に一妃は先程のしおらしい態度から一変して饒舌に話し出す。そしてなにか言おうとしても言葉に出来ずに口をパクパクさせている彼女たちを一妃はみやる。 
 
「お金で人を傍に置く?はっ。自分がそうしないと誰も傍にいてくれないって言っているようなものですね。よっぽど友人に恵まれていないんですね」 
 
 最後に嘲笑とも取れるよう笑みを浮かべる一妃に顔を真っ赤にした上級生の一人が掴みかかる。 
 
「このふざけんな!」
「ムカつく!」
「ムカつくのはこっちのセリフ!静のことで毎回毎回同じような話を聞かされている身にもなって欲しいくらいだ!!」
「調子にのるな!」 
 
 取っ組み合いになりそうになり、一妃が怒鳴る。そして、上級生の手が振り上げられそうになった瞬間。 
 
 
「あれー?一妃?」 
 
 
 なんとも呑気な声がその場に響いた。

 

 

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